~はじめに~
古美術品・骨董品というと古い焼物や壺などを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。焼物のことを正式には陶磁器といいますが、古い焼物は通称、古陶磁(ことうじ)といいます。
古陶磁(ことうじ)は中国が発祥です。英語でchinaチャイナは“古い焼物”という訳がありまして、それだけ、中国といえば、世界的に、古い焼物の代名詞といえる存在でしょう。中国の古陶磁について話せば、日本の倍以上の話ができてしまうわけですが、、それは別の機会に譲るとして、今回は主に日本の古陶磁についてお話させていただきます。
日本における古陶磁といえば、大きく2つのジャンルがあります。陶器(とうき)と磁器(じき)です。
まずは陶器(とうき)です。これは土を使って成形して焼く焼物の総称。古くは土器と呼ばれ、それは縄文式土器や弥生土器と呼ばれています。そして、平安時代、室町時代、鎌倉時代くらいまで、陶器は生活容器または祭器として使われていました。例えば、もみ殻や動物の干物などを保管する壺であり、食事の皿であり、祭礼の器などです。
そして、室町時代後期、桃山時代から陶器は芸術性を帯びていきます。それは茶道の影響です。茶道具には、茶碗や茶入を筆頭に、たくさんの陶器が使われました。日本の歴史において陶器の芸術性を高めたのは間違いなく茶道といえるでしょう。
そして、磁器(じき)ですが、陶器(とうき)から大分遅れること、江戸時代に登場します。磁器(じき)は、土に、ガラス質を混ぜて焼いた焼物です。丈夫な焼物であり、当時は画期的でした。もとは、中国、朝鮮の知恵であり、それが日本に伝わり、江戸時代に本格的にはじまりました。中国や朝鮮で丈夫な焼物が開発されたのは、上流階級のために、“割れない”ようにするためだったといいます。中国では皇帝を筆頭に、明・清の時代に特に栄えました。それがどんどん一般でも焼かれるようになっていったわけですが、日本でも、武士や貴族だけでなく、明治期以降は庶民にも広がっていきました。
磁器の代表的なものは伊万里焼や九谷焼になります。今の日本では、一般的には、陶器よりも磁器の方が食器によくつかわれていますね。やっぱり、生活的には丈夫で使いやすい方が重宝します。木や土の食器に比べて、食洗器も平気ですしね。
このように古美術・古陶磁の歴史は、日本のはじまりから陶器が登場し、江戸時代以降、磁器が登場し、今では磁器が一般的という流れになります。
陶器や磁器の美術品・骨董品的価値としての金額評価のポイントは、次の2つ。年代と作者です。ただ、年代を年代1、年代2ととらえて考えたいと思います。3つのポイントについて、次から詳しく解説していきます。
※要点だけでいいから知りたい!という方は、この記事を“1分”にぎゅっと凝縮した関連動画【1分解説動画「評価のツボ」古美術・古陶磁編】をご覧ください。要点だけは分かると思います。
【美術品・骨董品評価のツボ】~古美術・古陶磁について~1分でわかる!プロの美術商監修評価のツボ - YouTube
◆目次◆
1.全体相場の傾向
2.高額品の特徴(年代物1)
3.高額品の特徴(年代物2)
4.高額品の特徴(作者物)
1.全体相場の傾向
古美術・古陶磁とよばれるものは壺や皿をはじめたくさんありますが、10年以上前に比べると、日本の古美術・古陶磁の全体相場としては下落しています。
より正確にいうと、一部の高額層と他大勢の低額層に二極化しています。年代の稀少価値があるものや作者の有名なものは依然として高額で何百万円以上するものもありますが、そこそこ古いもの、そこそこ知られた作家などは以前に比べると非常に安くなっています。20年ほど前に古伊万里ブームなどがあって、ちょい古の伊万里焼であればなんでも何万円~何十万と売れていましたが、今の時代はそこそこ古くても一点で1万円以下の古伊万里はたくさんあります。これが日本の古美術・古陶磁の流通市場の現実です。高価買取などと耳障りの良いことをいうのは簡単ですが、そんな無責任なうたい文句はさておき、カテゴリーやジャンルなどしっかり区分けして解説するのが大事だと私は考えています。
日本の古美術・古陶磁とよばれるものは、色々な見解がありますが、一般的には昭和初期以前のものをイメージする流通品が多いです。そうなりますと、陶器は縄文期から昭和初期、磁器でも江戸期以降になるわけでして、市場に流通している古美術・古陶磁の数は膨大な数になってきます。
一部の高額層として年代が古い物や有名な作家物の数は限られてきますし、それ以外の低額層が圧倒的に多くなりますので、10年~20年以上前と比較すると全体相場としては大いに下落していると言わざるをえない状況です。一部の高額層に関しても、以前に比べて大いに値上がりしているか?といわれたらそうではありません。相場としては以前と同等かそれ以下と言わざるをえないでしょう。
ただ、一部の品物として、例えば、煎茶器に使われている陶磁器ですが、急須や涼炉、宝瓶、茶碗があります。これらは以前に比べると大いに値上がりしています。中国経済が10年、20年前に比べると上昇し、中国の方々が美術品・骨董品により傾倒するようになり、嗜好品としての茶器の需要が増え、それに日本の良く出来た煎茶器が大いに望まれるようになったことが背景にあります。つまりは国内需要というより国外需要な感じです。相場というものは需給であり、需要あるから金額がつきます。
煎茶器について詳しくは「記事 より詳しく!現在の相場と高額品の鑑定【抹茶道具・中国煎茶道具】」をご覧ください。
>
日本の古美術・古陶磁の愛好家は高齢化し、続く若い世代は思考が変化し好まなくなり、国内需要は低迷してしまっている。そもそも、日本の古美術・古陶磁の世界的な需要は決して高くはなく、マーケットが国内に偏っているのが日本の古美術・古陶磁の特徴です。それはひとえに国力といいますか、日本の価値が世界的にでもより上昇していけば、日本の焼物に目を向けてくれる時代も再度くるでしょう。日本経済が歴史的に一番盛り上がっていた80年代が日本の古陶磁の相場のピークでありました。やはりこれからの時代、外国の方々が目を向けてくれないと相場が上昇していくことはないでしょう。国家戦略として日本文化のアニメや漫画に続き、美術、古美術のPRにも期待したいところです。

昔は数千万円は下らなかった古九谷大皿
このように日本の古美術・古陶磁に関しては受難の時代ではありますが、そんな中でも、依然として高額な市場評価を維持し続けている品についてのポイントを詳しく解説していきたいと思います。誰でも、このポイントだけ知っておけば、売りに行ったときに損することはないでしょう。
市場評価が低いものはどうしようもありませんが、本来、市場評価が高いものを知らずに安く売却してしまうことだけは避けなければなりません。
ぜひご一読ください。
2.高額品の特徴(年代物1)
日本の古美術・古陶磁を評価するときに、まず、年代というポイントが非常に重要です。日本の歴史は縄文時代から令和まで各時代があり、簡単にいうと、それが“年代”です。
年代についてプロが評価するポイントには、大きく2つポイントがあります。それは、稀少性(きしょうせい)と芸術性(げいじゅつせい)です。
■希少性と芸術性■
稀少性(きしょうせい)とは、いわゆる、レア度。基本的には、古ければ古い方が現存数は少なくなるので、レア度=稀少性が高くなる。例えば、縄文時代、弥生時代の土器などは現在ほとんど存在しないわけで、稀少性は高くなる。また、時代がうんと古くなくても、何かしらの理由(破棄された、海外に流れたなど)で現存数が少ないものであれば稀少性は高くなる。
芸術性とは、簡単にいうなれば、人が見て「美しい」と感じるかどうか。美しいという感覚はもちろん時代、人によって違いがあるが、たくさんの人が美しいと思えば、それは芸術性が高いと考えて間違いはない。
稀少性はレア、芸術性は美しさ。このレアと美の掛け合わせが評価の重要なポイントとなります。
日本の陶磁器の歴史の中で、レアであり美しいとされる年代物を語るには、大きな2つのテーマを話さねばなりません。
まず一つ目は、鎌倉時代から桃山時代に6つの窯で焼かれた陶器についてであります。現在まで続く古い6つの窯、通称・六古窯(ろっこよう)といわれます。信楽(滋賀)、備前(岡山)、丹波(兵庫)、瀬戸(愛知)、常滑(愛知)、越前(福井)であります。
それぞれ、土も違うし、図柄になる釉薬なども違いますので、それぞれの魅力がありますが、六古窯のどれをとっても、壺(ツボ)は高額評価が多いです。一尺(30㎝強)を超える信楽や丹波の鎌倉期の壺であれば、数百万円することも珍しくはありません。昨今では、甕(かめ)と呼ばれる、背丈1Mくらいの大きなものはあまり好まれないので、一尺から二尺くらいの壺で、景色が豊かな見所の多い壺は、年齢や性別関係なく日本人の琴線に触れる美しさがあります。だから非常に人気であり、高額評価となるケースが多いんです。
大きな壺の話をしていましが、少し特殊なケースでいえば、信楽焼の一尺以内の年代壺は非常に高額です。通称・蹲(うずくまる)と呼ばれ、人が小さくうずくまったようなことを表現して、そのように呼ばれます。例えば、室町期の形の良い蹲(うずくまる)であれば、これまた数百万円以上となるでしょう。あとの時代にそれの模範が大量にあることから、その人気は現在もうかがえます。
壺(ツボ)が高額評価の筆頭であるといいましたが、もう少し挙げるとしましたら、徳利や花入も見逃せませんね。ツボと比べると少し時代は若いケースも多いですが、桃山期の備前の徳利などは形がよく美しければ、百万円以上は十分に値が付くでしょう。正確には六古窯ではないですが、信楽のお隣の伊賀にある伊賀の花入は見逃せません。独特のグリーンに発色した景色と姿かたちが美しければ、数百万円以上もゆうに超えてきます。これは、大茶人に好まれ重宝されてきた歴史が背景にあります。
思いつくままお話しておりますが、これらの品々は、由緒正しい歴史がある家だけの話だろ?!と思うなかれ、決してみなさまに無縁のことではありません。日本の古い旧家では、見かけることも決して珍しくはないんです。私自身がこの10年間でも目のあたりにしているからそれは事実です。とくに、六古窯に近い地域にお住いの方からのご依頼では目にする機会があったと記憶しています。なぜならこういう壺や徳利にしても花入も、もとは、生活容器として使われていたものであり、一部の限られた人だけのものではないからです。
ただ、現状として、価値も見つけられないうちに廃棄処分されているものは日本全国にたくさんあると思います。ですから、少しでも心当たりがあるという方は、ダメもとでも、信頼のおける美術商にぜひ鑑定をしてもらうことをおすすめします。絶対に可能性はありますから。
日本の古美術・古陶磁の年代物としてまず第一弾でした。
3.高額品の特徴(年代物2)
日本の陶磁器の歴史の中で、レアであり美しいとされる年代物。もう一つのテーマは、江戸時代初期に焼かれた磁器(じき)になります。それは、今でも有名な、あの伊万里焼、九谷焼のことであります。
土だけで焼かれた陶器に比べて、土にガラス質を混ぜて丈夫にした焼物である磁器ですが、江戸時代初期に生まれました。中国や朝鮮の半島から持ち込まれた技術であり、日本の磁器の歴史は伊万里焼や九谷焼の歴史といえます。
古伊万里(こいまり)という響きは、おそらく、一度は聞いたことあるかなと思います。昔は明治期まで、今では昭和初期くらいまで指すことが多くなってきましたが、その古伊万里の最初、江戸初期に焼かれた伊万里焼を通称・初期伊万里(しょきいまり)といいます。初期伊万里と呼ばれるものは、江戸時代最初のわずか20~30年ほどだけでして、その間に焼かれた伊万里焼の呼称です。初期の焼物なので、醸成技術もままならないときの焼物のため、歪んでいたり、絵付けも繊細で素朴な染付ですが、愛好家の中ではそれがたまらない魅力なっています。7寸皿(20㎝強)で絵付けがちゃんと分かる人気の図柄であれば、現在の評価額でも1枚で100万円以上にはなります。よりレアな絵付けになれば、数百万円。一尺(30㎝強)以下で比較的小さめの皿が多いですが、徳利などもありまして、それも非常に高額であります。
また、古伊万里と人気を二分する古九谷(こくたに)。江戸時代前期(1600年代後半)に焼かれた九谷焼のことをさします。この古九谷(こくたに)と呼ばれる時代も、わずか20~30年ほどだけです。古伊万里のような素朴な染付と違い、緑や黄色の原色を施した油絵のように豪快な図柄となっています。そして大きな皿が多く、古九谷は非常に男性的な芸術だといわれることがありました。古九谷(こくたに)の一尺半以上の大皿であれば数百万円以上する高額品となるケースが多いです。古九谷は小さいより大きいものが評価が比較的高くなります。徳利も大きなものが多い。この古九谷は窯が謎の消滅をしましたが、それから100年以上経ったときの江戸中期頃(1700年代後半)に再興された再興九谷(さいこうくたに)も非常に人気です。人気の吉田屋窯で焼かれた再興九谷であれば、数百万円以上の評価になるケースも少なくありません。
そして、忘れてはならないのが鍋島焼です。江戸時代を通じて徳川将軍に献上された鍋島藩(佐賀県)の御用磁器です。通称・ナベシマは、現在の評価では、初期伊万里や古九谷以上の評価かもと思わせるくらいのものとなっています。伊万里や九谷はあくまで庶民のために使われた焼物であるのに対して、ナベシマは大名や将軍家のために焼かれた上手の焼物という特徴があります。ナベシマは初期・前期・盛期、その後というように焼かれた期間によって決まったデザインがありまして、とても繊細で正確な絵付け、全体的な色合いも上品で可憐な印象です。伊万里焼、九谷焼と比べると、ある程度の家系がなければ、なかなかお宝として蔵出しするケースは少ない印象です。江戸時代前期の美しいナベシマとなると一千万円以上の評価になるものも珍しくありませんが、ナベシマは非常に贋作が多いので、注意が必要です。
高額評価の話をしておりますが、では、以上のような初期伊万里や古九谷、再興九谷、ナベシマを外れた、少し古めの伊万里焼、九谷焼などの現在の市場評価はどうか?!と申しますと、正直、低額評価のものが多いです。例えば、江戸時代も幕末くらいに時代が下がってしまうと、古伊万里(こいまり)だと言っても、数千円台のものはザラです。もうこの頃は製造技術も整い、数も多いので、そんなに稀少性、レアではない。古陶磁も他の業界と同じように、人気のあるものとそうでないものに二極化していると思います。
3.高額品の特徴(作者物)
古美術・古陶磁の高額品について、最後のポイント、それは作者であります。日本の古陶磁を語る上で、現代でも、最高峰として名高い作者、それは、野々村仁清と尾形乾山です。京焼の作者なのですが、江戸時代に活躍した作家です。
まずは野々村仁清ですが、京焼の創始者であり、原型をつくりあげたレジェンド中のレジェンドです。仁清は非常に多才であり、陶器も磁器も、茶碗から花瓶、置物、香炉など多くの作品を残しました。
“色絵陶器”という土の柔らかさを持ちつつ、色鮮やかな絵付けのバランスが独特の魅力です。日本の陶磁器の分野では現時点で5つの国宝が指定されていますが、そのうちの2つ「色絵藤花文茶壷」「色絵雉香炉」が仁清の作品です。古陶磁の作者物としては、3つのうちの2つがなんと仁清!いかにすごいかというのがお分かりいただけるでしょう。

- 国宝「色絵藤花文茶壷」所蔵:MOA美術館
仁清は生涯で多くの作品を製作したことでも知られていますが、いかにも仁清の作品と言わんばかりに、仁清の印がある作品は市場にけっこうあります。ただ、そのほとんどが贋作であるため、よほど来歴などしっかりした情報がないものは十分な評価はされにくいのが現状となっています。そのため、いざ仁清として然るべきプロが認める作品の中でも茶碗や香炉などの逸品となると数百万円はくだらない。古陶磁・作者物の頂点といえるでしょう。
その巨匠・仁清の人気を二分するほどの作者がもう一人。尾形乾山です。時代は江戸前期。同じく京焼の作者でして、師匠は野々村仁清です。そして、尾形乾山の兄は尾形光琳。日本絵画のルネサンスとも称される有名な琳派の大家であります。まあ、サラブレッドといってもいいでしょうかね。環境が抜群な感じですね。乾山の作品はまさに、絵画と焼物の融合といえるでしょう。兄の光琳と師匠の仁清の世界観を見事に融合した美しい作品が多いです。

乾山作 色絵竜田川文透彫反鉢 ※重要文化財
これまた仁清と同じく、市場では乾山と名乗る作品はよく目にします。ただし、そのほとんどが贋作です。個人的な感覚としては、最近では、仁清よりも乾山の方がやや高騰している気がします。乾山も本物であれば角皿一つで数百万円するものもでてきていますので。乾山の作品の図柄が中国の方にも少々好まれるというのも後押ししているかと思います。ここらへんは頂上決戦なので、両方とも別格に高額なのは間違いありません。
作者物としてもう一人おさえておきたい人物がいます。それは酒井田柿右衛門です。現在まで続く歴史ある陶工家系・柿右衛門のすごさは語りつくせませんが、その製法が重要無形文化財となっておりまして、無比なるもの、他のどこにも真似はできない。代表的な製法である乳白色の濁手(にごしで)はあのマイセンも盗み切れなかったという逸話があります。日本人の感性に響く、“余白の美”と申しましょうか、色絵の絵付けをしていない白地の美しさ、また、濁手の白地だからこそ発色する色絵のきらびやかさがあるのです。現在は十六代柿右衛門が当代でありますが、代表的な花瓶などは数百万円の値打ちがあるものもたくさんあります。日本の“色絵磁器”の最高峰であります。

※十五代酒井田柿右衛門「濁手鉄線文花瓶」
【古美術・古陶磁】の藤美堂コンテンツ
■1分動画■
1分で分かる!高額品の特徴⑤【古美術・古陶磁】
■解説記事■
【古美術・古陶磁】徹底解説!高額品の特徴と現在の相場※2025
■買取査定実話■