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vol.26(後編)『ポーラ美術館コレクション展 ~モネ、ルノアール、ピカソ、シャガール~ inあべのハルカス美術館』

あべのハルカス美術館。ポーラ美術館コレクション展。藤美堂。
2021年9月20日(月曜日)

▶【前編:「絵画はその昔、あまり自由でなかった」】へのリンク

【前編のおさらい】 紀元前古代ギリシアの時代から14世紀までの長い間、西洋絵画では「何を描くべきか?(What)」という大きなテーマがありました。14~16世紀のルネサンスの変革により、画家たちは、神、人、自然など、自分が描きたいテーマで自由に描くことができるようになっていきました。そして、ルネサンス以降の画家たちがチャレンジしたこと、それは、「どう描くか?(How)」という絵画の“表現”についてでした。絵画の表現にたくさんの革命を起こした素晴らしい画家たち、モネ、ルノアール、ピカソ、シャガールについて、お話をしたいと思います。

絵画表現に、“自由”を見出した天才画家たち。

ルネサンス以降の約300年ほど、バロック調・ロココ調・新古典調など、シックに描くか、派手に描くかなどの“〇〇調(様式)”がたくさん生まれました。今でいう、雰囲気、テイスト、トーンという意味合いに近いと思います。

ただ、色々違いはあれど、共通していた“暗黙の掟”がありました。

「縁取ってきちんと正確に色濃く描く。それが絵画。それをできるのが画家」。

つまり、これは絵を“描き方そのもの(絵画の原理)”のことを言っています。

私はいつもこれを思う時、車の歴史に近いものを感じています。

車の“様式”も装飾性、機能性など、車種、年代によって違いはありましたが、どの車も石油を燃やして走っていました。昔は、誰もが電気で走る車なんて、高いし、距離は走れないし、危ないと思っていました。しかし、地球の環境破壊を阻止するという大きな目的のために、昨今は、石油車の販売が次々と禁止になり、いよいよ電気自動車が本格化する時代になりました。

絵画においても、19世紀半ばに、、これまでの原理原則をくつがえす革命を起こした画家たちが現れたんです。

その絵画は、暗黙の掟とは対照的で、“輪郭がなく、細かい筆致で、ふわっと”描かれていました。

見た感じでは、絵の心得がない素人が描いた絵だと思われていました。

「こんなのは絵ではない」。絵画界の重鎮たちは一蹴します。世の中に出されることもなく、そのほとんどが潰され、貴族たちからも興味をもたれませんでした。。?!

興味をもっていないような素振りをしていたというのが本心だったようです。。

ちょっとずつ、ちょっとずつですが、、、、支持する貴族、民衆が現れました。

なぜなら、その絵に描かれている景色、人を見てみると、、、

これまでに見たことがないほど、、、、、、

“とても明るい景色だった”、“まばゆいほどの笑顔だった”からです。

それが、モネやルノアールの印象派の絵画です。

伝統的な絵画技法は、輪郭を描き、絵の具を塗り重ねることで色濃くしっかりと描いていました。ただ、そうなると全体的にどうしても暗くなってしまいます。

モネやルノアールたちは、輪郭を描かず、筆を置くように、重ねず塗り分けて描きました。そうすると、微細な余白が明るさになり、色本来の明るさもキープできる。だから、屋外の自然を存分に明るく、女性の笑顔を輝しく描くことができたわけです。

印象派の画家たちは絵に“光”の自由を与えました。

実は、これは産業革命の時代だからこそ起こったともいえるんですね。産業革命で生活に余裕ができて民衆に余暇ができた(生活が明るく)こと、カメラの登場によって写実絵画(きっちり正確に)の必要性が薄れたこと、チューブ絵の具の登場によって絵の具を屋外に簡単に持ち出せる(明るい陽光の元で)ようになったことなどが挙げられます。産業革命のこの時代は、ヨーロッパの古き良き時代でもあり、印象派たちの絵画は今でも世界で最も人気のある絵画となっています。

そして、その後、“フォービズム”と呼ばれる絵画表現が登場します。代表的な画家はヴラマンク。

原色使いの派手な彼らの絵は野獣(フォービズム)のようだったので、そう呼ばれました。

彼らは、絵に“色”の自由を与えました。

▶ヴラマンク – Google 画像検索結果

そして、“キュビズム”。その代表的画家はピカソ。

“キュビズム”とはキュービック(立体)からきている造語であります。

一見、難解なキュビズムですが、サイコロを使って説明すると少し理解できると思います。一方向から見えているサイコロを描くのがこれまでの絵画だとすると、キュビズムはサイコロを反対から、下から、斜め横から、左横から、上から、、、など、つまりは多方向からイメージします。そして、その全ての情報の中で、自分が“美しい”と思う情報を1枚の絵にまとめるという感じです。

この考え方で描いた自画像があります。想像力なく、お恥ずかしいですが・・・・・こんな感じです。

その昔、息子が8歳の時に親子で参加した絵画フェスティバルで、「ピカソに挑戦」というテーマでレクチャーを受けた時に描きました・・・。自分ではそれなりに満足したんですが、中には、「す、すごい・・・・」と感嘆してしまう絵を描くお子さんもいました・・・。自分の想像力の無さと、子供の想像力の素晴らしさをあらためて実感しました。

ピカソの絵は、その雰囲気から、抽象画家だと思われがちなのですが、実は、自身のことを究極の“写実画家”と考えていたようです。勝手な想像ではなく、現実にある情報をピカソが1枚に再編集した絵です。「結果的に仕上がったものが現実的ではない」と一般的には思われるかもしれませんが、ピカソにとってはいたって大真面目で、「これこそが究極の現実だ」と考えていたに違いありません。

ここで最大のポイントは、誰もが見ている世界ではなく、“自分の見ている世界”を描いてしまっていることです。絵はこれまで、依頼されたり、求められたりして描くものでありました。見てもらうために絵を描くのではなく、自己表現のために描くというところが大きな変化です。

キュビズムは絵画に、“形(造形)”の自由を与えました。

そして、最後に“シュルレアリスム”という表現。その代表的な画家が、シャガール、ダリです。

シュルレアリスムは喜怒哀楽など、“自分の心(精神世界)”の表現を主体としています。

シュルレアリスムが生まれたきっかけは“戦争”でした。シャガールの絵には、幸せそうな2人が町の上空をフワフワと浮遊しているような絵があるんですが、戦火の中で、会いたくても会えない悲しさ、寂しさ、戦争への憤りを描いているんですよね。

※シャガール「恋人たちの空」リトグラフ(藤美堂)

時計がぐにゃっとした絵、個性的なヒゲで有名なサルバドール・ダリ。第二次世界大戦という時代背景の中で、原子力のもつ二面性を描いたり、戦争の恐ろしさを独特の世界観で描きました。

サルバドールダリ – Google 画像検索結果

“フォービズム”、“キュビズム”、“シュルレアリスム”。

自己表現のための絵画という変革。

フォービズムの“色”表現でその片鱗が見え始め、キュビズムの“形(造形)”表現で発展し、“シュルレアリスム”の“心”表現で、それは確立したと私は考えています。

これ、まさに、現代アートに通ずるものがあります。

現代アートの魅力は、アーティストの個性とその多様性にあると思います。そんな時代を切り開いてくれたのは彼らだったと私は思います。きっと、墓場の陰でほくそ笑んでることでしょう。

西洋絵画史、2回に渡って、勝手気ままにお話させて頂きましたが、いかがだったでしょうか。

あくまでも、一美術商の私見ですので、そこら辺はくれぐれもご容赦お願いします。

今回も貴重な展覧会をありがとうございました。

あべのハルカス美術館さまには、いつも、感謝、感謝です!!

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