美術の余談 No.9「いつでも、いつまでも見ていたくなる“緑”」~東山魁夷~

(みどり)。

森林など木々のイメージ、癒しのカラー、緑が好きな日本人は多いですよね。日本人が好きな色のTOP3には必ず入る緑(グリーン)。これまで、絵画では風景画をはじめ、たくさんの“緑”が描かれてきました。

そんな中でも、いつでも、いつまでも、見ていられる“緑”を描く画家がいます。日本風景画の巨匠・東山魁夷です。

みなさんも、一度はご覧になったことがあるかもしれません。シャープ・アクオスの液晶TVのCMで一躍有名になりました。

※東山魁夷「緑響く」 出典:長野県信濃美術館・東山魁夷館所蔵https://www.npsam.com/about/statistics

日本画の鑑定・査定では、東山魁夷の絵は日本画家の中でもトップクラスの高値がつきます。ざっと、版画や水彩で数十万円~数百万円、油絵で画題と状態がよろしければ1000万円は下らないほどの大人気作家です。美術館の東山魁夷展は連日盛況。日本人の心に響く絵画です。

そんな大人気作家となりますと、世の常と言いますか、多くの贋作(偽物)が存在します。当店で鑑定させて頂いたものの中でも、多々、贋作はありました。それはたいてい代表作である緑を彩った作品でした。贋作師は、原価を抑えた材料でその作家の代表作を制作して、高く売って儲けようとします。

しかしながら、東山魁夷の“緑”なかなか出せない色。そんじょそこらの贋作師では到底近づける色ではありません。

そのをどうやって出すかと言いますと、それは、“岩絵の具”というものを使います。簡単に言うと、色付きの岩を砕いたものです。岩絵の具は日本古来の道具であり、古くは1500年前の高松塚古墳の障壁画の時代から使われているものなんですね。

※岩絵の具の一例

東山魁夷は自分ならではのを出すための岩絵の具にとてもこだわり、天然のものしか使いませんでした。また、天然なんで自然な色合いであり、同じ色は二つとなく、自分の気に入った「これだ!」と思う緑色があればストックしていたことでしょう。それほどのこだわりと情熱を込めていたわけです。

東山魁夷は戦争経験者なのですが、戦時中には特攻隊として爆弾を体に巻き付けて、何度もを覚悟したそうです。そんな極限の状態で描いた絵画が評価されて以後、「自然が自らに語りかけてくるようになった」と言います。

そんな境地に達した男が描く自然の緑は、それはそれは、いつでも、いつまでも日本人の心に深く刻まれております。今日はそんな緑に想いをはせた余談でした。。。  店主