店主ブログ

~生命の輝き~ 東山魁夷「山湖澄む」 ※店主筆(情報誌連載)

2019年12月11日(水曜日)

青緑の濃淡と淡い輪郭。その調和が奏でる旋律は観る者すべてを穏やかな気持ちにさせてくれる。生命が宿る幻想的な世界。戦後を代表する日本画家の巨匠 東山魁夷の作品「山湖澄む」。

明治41年(1908)横浜に生まれた東山魁夷は、東京美術学校を卒業し、ドイツ留学の後、太平洋戦争への応召、肉親の相次ぐ死といった試練に見舞われるが、そうした苦難のなか風景の美しさに開眼し、戦後はおもに日展を舞台に「残照」や「道」といった風景画の名作を数多く発表した。昭和43年 皇居の新宮殿壁画を制作。昭和44年 文化勲章受章。昭和50年 唐招提寺御影堂壁画を制作。ドイツから功労大十字勲章受章。最高の日本画家の一人である。

「あの風景が輝いて見えたのは、絵を描く望みも、生きる希望も無くなったからだと思う。私の心が、この上もなく純粋になっていたから。死を身近に、はっきりと意識する時に、生命の輝きが強く心に映ったにちがいない」。戦中下、家族を失い、爆弾を巻きつけて戦車に特攻する訓練を行い、死を覚悟した。そんな極限の状態に追い詰められた魁夷が観ることができた景色、それが名作「残照」となった。以後、魁夷は“自分に語りかけてくる自然”を純粋に描いてきたという。自然に対し、邪念を捨て誠実に向き合うことで心が自然と一体になり、鏡のように心に自然が描き出される。長野県にある魁夷の墓石には「自然は心の鏡」と彫られている。享年90歳。誰よりも自然を愛し、そして、誰よりも自然に愛された日本画家であった。

魅了される絵には2種類あると思います。圧倒される絵と引き込まれる絵。魁夷の絵は自然と引き込まれる魅力があります。一見、見過ごしてしまいがちな絵なのですが、いざその前に立つと感じるのは「いつまででも見ていられる」という感覚。描けそうで絶対に描けない絵でしょう。どこか日本の奥ゆかしさに通ずる心地良さがあります。魁夷の絵を見れば日本の良さを再発見できるかもしれません。アートで人生に彩りを。

※店主執筆の連載記事・情報誌R バックナンバー(2018年10月号)より

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