店主ブログ

vol.20『柿右衛門 Yumeuzurasコレクション in大阪市立東洋陶磁美術館』

東洋陶磁美術館。柿右衛門。藤美堂。
2021年7月9日(金曜日)

世界の王侯貴族を魅了した、Kakiemon。

『柿右衛門 Yumeuzurasコレクション in大阪市立東洋陶磁美術館』に行って参りました☆彡。

東洋陶磁美術館。柿右衛門。藤美堂。 

柿右衛門。かきえもん。Kakiemon.

江戸時代から約350年以上続く陶芸家の名前です。

その作品は“柿右衛門様式”と呼ばれ、最も“鮮やかで上品”な日本美術の一つであると私は思っています。

今回は、関西屈指のコレクターYumeuzurasのコレクション特別展でした。Yumeuzurasの柿右衛門コレクションは“カワイイ”がテーマであり、食器を中心としてたくさんの小物を拝見することができました。これまで、大きい一品の柿右衛門を見る機会は多かったのですが、“カワイイ”柿右衛門を一気にたくさん見たことはなかったので、今回の展覧会はとても貴重で本当に楽しかったです。コレクター展示はコンセプトが明確なので見ていて分かりやすいです。

柿右衛門作品は、あまりご存じない方でも、見たら「素敵」と思い、知れば知るほど興味をもつことでしょう。当店のお客さまにも、そのような方はこれまでたくさんいらっしゃいました。

その昔は、ヨーロッパの王侯貴族を骨抜きにしてしまい、柿右衛門欲しさに軍隊を売り払ってしまうような時代もあったくらいなんですよ。柿右衛門の色絵磁器、中国の青花磁器が欲しくて欲しくてたまらなくなることを揶揄して“磁器病(じきびょう)”と呼ばれた歴史もありました。

今でも世界中にファンがいる日本が世界に誇るジャパニーズアートであります。

東洋陶磁美術館。柿右衛門。yumeuzuras
※柿右衛門yumeuzurasコレクション(東洋陶磁美術館にて撮影)

柿右衛門からはじまった、“色”のある日本陶芸。

磁器(じき)とは、ガラス質の固い焼物のことです。今では、皆さまの周りにも当たり前のように日常食器として使われています。世の中の焼物は磁器と陶器に大別されますが、現代では、日常食器の大半は固くて丈夫な磁器でつくられています。磁器は中国が起源であり歴史は古く13世紀頃から本格的に制作されはじめました。コバルト(青色顔料)による絵付けで芸術性が高まったことで一気に世界に広がったんです。

そして、時遅れること17世紀頃に、日本では伊万里(有田)で磁器づくりが始まりました。伊万里焼の最初の頃は中国の模倣が中心で、素朴な焼物ばかりでした。しかし、30年ほど経って大きな変革が起こります。

磁器の“赤”色絵付けに成功したんですね。それを実現したのが初代・酒井田柿右衛門。“赤”は全ての色の原色であります。それ以降、色鮮やかな陶芸の歴史がはじまることになります。

そして、柿右衛門はとても繊細なタッチで見事な絵付けを行いました。この“色鮮やかで洗練された”柿右衛門様式が世界に輸出されると、ヨーロッパの王侯貴族に「なんと上品なんだ」と瞬く間に人気となり、大ブームになりました。

「柿右衛門をなんとかヨーロッパでも作ろう!」と考えて、半世紀ほどの努力の結果生まれたのが、マイセン(ドイツ)であります。マイセンは最初は柿右衛門のコピーをたくさん作る工房でしたが、その後、独自のデザインや型物を生みだし、今では世界で最も有名なブランドの一つとなっています。

もし、柿右衛門が存在していなかったら、マイセンも生まれていないかもしれませんね。そう考えると世界の美術史の中でも、柿右衛門が与えた影響はとても大きかったのではないかと思います。

酒井田柿右衛門。15代。濁手。花瓶。藤美堂。
※『濁手鉄線文花瓶』15代酒井田柿右衛門(藤美堂所蔵)

その時代に合わせた、最高の“白”。

柿右衛門の魅力の秘密は“白”にあり。

“美しい白地”に鮮やかな色絵付けがされた柿右衛門は、“白い金”と呼ばれた時代もありました。

柿右衛門の色絵の魅力が他と違うのは、実は、“白い素地”が大きな役割を果たしているんです。柿右衛門の素地の白色は、米のとぎ汁のような、ミルキーな乳白色であります。

その独特な白い素地のことを“濁手(にごして)”と呼びます。

この“濁手”は秘技でして、その制作技術は国の重要無形文化財に指定されています。

この“濁手”に赤をはじめ色絵がのると、化学反応などで色絵の発色がとびきり生き生きしたものになるんです。なので、世界中のどの色絵磁器よりも色鮮やかなんですね。

マイセン(ドイツ)もこれだけは真似ができなかったようです。何度も何度も研究して真似ようと思ったものの、濁手は再現できなかったとのこと。まさに秘技ですね。

私が“濁手”について、とても印象に残っているエピソードがあります。

濁手をつくるためには3種類の天然陶石を混ぜるとのことですが、初代の頃と当代とは微妙に乳白色の色合いが違います。「代々とはいえ、その代の好みで色合いが違うんだなぁ。」と勝手に想像していました。

しかし、当代の次のお話を聞いて、本当にお恥ずかしながら、自分の思考がまだまだ浅かったことに気づきました。

「時代によって環境が変化し含有されている成分も微妙に変わるので、その時代によって調合割合を変えている」とのこと。

つまり、絵付けの様々な色合いを最大限引き出す“濁手”をつくるためには、その時代に合わせた最適な陶石配合を研究しなければならないということ。なので、白色が違って当然。「その代々が生み出した“最高の白”なんだ」と改めて理解しました。お話では簡単なようですが、満足のいく形にするためには、想像を超えた大変な努力があると思います。知れば知るほど奥深く、楽しくて、本当に魅力的だと思います。

個人としても、美術商としても、柿右衛門に魅了されている大ファンとして、今後もたくさん楽しませて頂こうと思います。

今回は、貴重な展覧会を本当にありがとうございました。

大阪市立東洋陶磁美術館さまには、感謝感謝です!

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