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vol.13『東山魁夷 ~唐招提寺御影堂障壁画展~ in 神戸市博物館』

神戸市博物館の東山魁夷展。唐招提寺御影堂障壁画。藤美堂。
2021年5月22日(土曜日)

それは、世界に誇る日本の“大作絵画”。

『東山魁夷 唐招提寺御影堂障壁画展 in神戸市立博物館』に行って参りました☆彡。

神戸市博物館の東山魁夷展。唐招提寺御影堂障壁画。藤美堂。

最近はコロナ禍の中で、どこもかしこも展覧会が臨時休館中。開館している展覧会を探すのが難しい状況です。

そんな中、“一筋の光が!”という心境です。神戸市立博物館に感謝感謝。

なぜなら、今回は、わたくしの大好きな日本画家・東山魁夷、そして、魁夷の大作である障壁画を見ることができるからです。

『唐招提寺御影堂・障壁画』は、日本の海・山の風景、中国の風景を描いています。奈良時代に幾度の困難を乗り越えて来日し、日本仏教の礎を築いた鑑真の像(鑑真和上像※国宝)をまつる部屋=御影堂の内部に描かれています。唐招提寺から依頼され、東山魁夷が制作しました。

魁夷の展覧会はいつも満員御礼。しかしながら、この時期ですから、来場者は少なかったと思います。その分、ソーシャルディスタンスを意識しながらも、約1.5時間じっくりたっぷり拝見することができましたので、ちょっと得した気分でした。。。

実はこの障壁画は、以前に2度見たことがあります。あらためて見ても、リアル感が半端じゃなくバーチャルの世界にいるような感覚。ずっと佇んで(たたずんで)いたくなる気分になります。海、山の景色。壮大に描かれたその景色にあっという間に没頭できるんです。海の香、波の音、山の匂い、鳥のさえずり、、、、本当に感じられます。これだけのアート大作を生みだせる画家は、世界にも珍しいと私は思います。

では、なぜそんな異次元なことができたのでしょう?理由はたくさんありますが、、、、今日は、私が考えている“2つ”の理由を挙げてみたいと思います(個人的意見にて、悪しからず)。

原体験×圧倒的努力。

まず、魁夷は“写生の鬼”だと思います。日本全国のいたるところ、そして世界各国を旅し、誰よりもたくさんの写生画を描いたと思います。その大半は世に出ていないものですが、それだけ、世界中の風景を描いて描いて描きまくった素晴らしい経験がある。海で使われる色は“青”ですが、東山ブルーと称されるほど魁夷のブルーは魅力的。山で使われる色の“緑”も、東山絵画の代表的な色となっています。そして、輪郭無しの筆致はとても特徴的です。それまでの絵画は、山であれば山の輪郭を描いてから色を塗るのが一般的でした。魁夷は、輪郭を描かず、色彩の濃淡だけで山を表現してしまったんですね。色味と濃淡が何層にも折り重なることによって、透明感のある淡い雰囲気を醸し出しています。発色を意識し何層にも塗り重ねる工程は気の遠くなる作業だと思います。

もう1つは、“原体験”だと私は思っています。東山魁夷は戦争経験者であり、戦争で家族を失い、自らも特攻隊として体に爆弾を巻き付けて何度も死を覚悟したそうです。奇跡的に戦死を免れて、戦後に描いた作品が初めて世の中に評価された時、このように語っています。「あの風景が輝いて見えたのは、絵を描く望みも、生きる希望も無くなったからだと思う。私の心が、この上もなく純粋になっていたから。死を身近に、はっきりと意識する時に、生命の輝きが強く心に映ったにちがいない」。以来、「自然が自分に語りかけてくるようになった」とのことで、原体験からする巨匠の境地は常人には理解し難いですが、独自の魅力を作り上げている要素の一つであることは間違いないと思います。

“原体験×圧倒的努力”。偉大な経営者の成功要因としても見られるところであり、多くの人々を惹きつける理由ではないかと私は想像しています。

新しい体験から“価値”を生み出す。

この障壁画を描いたのは魁夷が67歳のとき。実は、これまでになかった新たな挑戦をしました。それは、水墨画への挑戦です。山と海の風景は色彩で描きましたが、中国の風景は水墨画で描きました。水墨画は墨の濃淡だけで描く最も難しい技法の一つと言われています。

なぜそれに挑戦しようと思ったのか?それは、“鑑真の故郷”を描くためでありました。水墨画と言えば中国が原点でして、鑑真の故郷である中国の景色を描こうとしたとき、魁夷は「水墨画が最も良いだろう」と考えたそうです。その考えはあったものの、「それは本当に正しいのだろうか?!」という不安はあったと言います。そこで、当時、渡航がとても困難だった中国に、あらゆる手段を講じて中国旅行を決行しました。そして、中国の桂林という場所で、「日本にはないこんな景色があるのか・・・。これを描くのは水墨画しかない!」と確信したそうです。

帰国後は研究に研究を重ねて、これまでの色彩画の経験を活かした“新しい水墨画の技術”を生み出しました。唐招提寺の中国風景の障壁画は、その技法で描かれています。中国絵画にもないような、とても幻想的・神秘的な雰囲気です。ご興味もたれた方は、『黄山暁雲』というワードで是非調べてみて下さい。一目瞭然だと思います。

67歳になっても、今までの経験だけにとらわれず、新しい体験を通じてこれまでにない価値を生み出す。葛飾北斎もそうでした。ゴッホもそうです。巨匠と呼ばれる人は、自分の目で見て聞いて感じた体験を誰よりも大事にしているんだなぁと思います。だからこそ、何歳になっても労力をいとわず、現地に足を運ぶ。絵が好きだからというのもあるし、上手くなりたいからというのもあるんでしょうが、全て含めて、心より尊敬いたします。

今回も貴重な体験、本当にありがとうございました。

神戸市立美術館さまに、感謝!感謝!です。

神戸市博物館・藤美堂。

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